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手に汗握る人へ

手汗多汗症に対する胸腔鏡下胸部交感神経節遮断術(外科 辻 和宏)

手掌多汗症とは精神的、感情的あるいは軽い刺激などによって手掌や足底にひどい発汗をきたす疾患です。程度の差はありますが、本人が自覚しないような軽微なストレスでも発汗するため日常生活に支障をきたすことがあります。患者の手掌は常に湿って冷たいのが特徴で、時には手掌より滴下する程の多量の発汗を呈します。この疾患は患者の社会的適応を著しく制限し、精神的にも多大なハンディキャップを及ぼしており、職業上の不都合により転職を余儀なくされる場合もあります。原因は交感神経の部分的機能亢進と考えられていますが詳しくはわかっていません。家族歴は25~33%にあると言われています。
治療としては薬物やローションなどを用いることもありますが、無効なことが多いようです。手術としては古くから開胸による胸部交感神経切除術が行われてきましたが、近年の内視鏡治療の普及により胸腔鏡(胸の中を覗くカメラ)を用いた手術が盛んに行われるようになってきました。胸腔鏡下交感神経遮断術の利点としては、簡便である、手術時間が短い、低侵襲である、美容上優れている(創が小さい)、術後疼痛が少ない、入院期間が短い、などが挙げられます。つまり、胸の上部に片方につき2カ所の3mm程度の傷のみで手術を行いますので非常に低侵襲に治療を行うことが可能です。手術直後から手掌は暖かく乾燥し、非常に満足の得られる手術です。手術前日に入院し、最短2泊3日の入院で行っております。この手術はレイノー病(指の血管が収縮して冷たくなる病気)、バージャー病(手足の動脈が炎症を起こし詰まる病気)や赤面症に対しても行われています。
これら多くの利点がある反面、術後の合併症も存在します。最も多いものは代償性発汗で術後に体幹部や大腿部などに発汗するようになるものです。30~70%に発生するとも言われていますが、一過性の場合もあり術前の状況を考えると患者自身もほとんど負担にならないと言います。その他、疼痛(背部痛など)、出血、気胸、再発などが起こる可能性があります。
この疾患は生命に関わる病態ではありませんので絶対的な手術適応は存在しません。患者さんの強い希望が手術適応を決定します。したがって、十分な説明を行い患者さんの同意を得られた後に手術を行います。
思春期に発症して、親からも「精神的なものだ」「気にするな」などと言われ、引きこもりやいじめなどの原因になることがあります。困っている方がおられましたら一度当科を受診することをお勧めします。

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